変形労働時間制とは
ー3つの種類と導入手順について解説ー
ー3つの種類と導入手順について解説ー
業務の繁閑の激しい飲食店や旅館では、変形労働時間制の導入によって総労働時間を短縮できるなど、プラスの効果が期待されます。
ですが残業時間の計算など複雑なため、適切に運用しなければ賃金の未払いが発生するおそれがあります。
そうならないためにも、変形労働時間制について理解を深めていきましょう。
変形労働時間制とは、繁忙期の所定労働時間を長くする代わりに、閑散期の所定労働時間を短くするといったように、業務の繁閑や特殊性に応じて、労使が工夫しながら労働時間の配分等を行い、これによって全体としての労働時間の短縮を図ろうとするものです。
ただし、変形労働時間制の場合でも法律で規制された労働時間を超えた場合は、残業代として支払われます。
変形労働時間制は3つの種類に分けられます。
①. 1ヶ月ごとに就労時間を設定する変形労働時間制(多くは1ヶ月単位の変形労働時間制)
②. 1ヶ月を超える期間で就労時間を設定する変形労働時間制(多くは1年単位の変形労働時間制)
③. 1週間単位の変形労働時間制
主に、どの範囲の期間で労働時間を清算するかの違いとなります。
1か月単位の変形労働時間制は、1か月以内の期間を平均して1週間当たりの労働時間が40時間(特例措置対象事業場(※1)は44時間)以内になるようにするものです。
(※1)常時使⽤する労働者数が10人未満の商業、映画・演劇業(映画の製作の事業を除く)、保健衛生業、 接客娯楽業
1年単位の変形労働時間制の場合は、法定労働時間を1ヶ月以上から1年までの労働時間を平均し、1週間当たりの労働時間が40時間以内になるようにするものです。
しかし1年の総労働時間の基準を超えなければ、偏ったシフトを組むことが出来てしまいます。そのため、1日の労働時間の限度は10時間、1週間の労働時間の限度は52時間と定められています。また連続勤務の日数の限度は6日間と決まっています。
1週間単位の変形労働時間制とは、規模30人未満程度の小売業、旅館、料理、飲食店の事業において、労使協定により1週間単位で毎日の労働時間を弾力的に定めることができる制度です。
1日の労働時間の限度は10時間と決まっています。
変形労働時間制と同様に、労働時間を調整できるフレックスタイム制という制度もあります。変形労働時間制との違いは、労働時間の決定権が誰にあるかという点です。
変形労働時間制では、繁忙期・閑散期など企業や部署の仕事量に対して調整されます。
その一方でフレックスタイム制では、あらかじめ働く時間の総量(総労働時間)を決めた上で、日々の出退勤時刻や働く長さを労働者が自由に決定することができます。そのため、通院や保育園の送迎などプライベートな用事のために調整することができます。
3種類の変形労働時間制の違い一覧表
では、定時が決まっていない変形労働時間制では残業代はどのようにして支払われるのでしょうか。
1ヶ月単位の変形労働時間制の場合では、残業時間を「日ごと」「週ごと」「設定期間全体(月ごと)」で段階的に計算していきます。
「日ごと」
(1)所定労働時間が8時間を超えている日
所定労働時間を超えて働いた時間全てが法定外残業時間になります。
(2)所定労働時間が8時間以内の日
所定労働時間から8時間までが法定内残業、8時間を超えて働いた時間が法定外残業時間となります。
「週ごと」
(1)所定労働時間が40時間(44時間)を超えている週
所定労働時間を超えて働いた時間が法定外残業時間になります。
(2)所定労働時間が40時間以内の週
40時間を超えて働いた時間のみが法定外残業時間になります。ただし「日ごと」の基準で残業となった時間は、「週ごと」の基準では除外されます。
「設定期間全体(月ごと)」
月ごとの法定労働時間を超えて働いた時間が、法定外残業時間となります。ただし、「日ごと」、「週ごと」の基準で残業となった時間は、月全体の基準では計算から除外されます。
1ヶ月単位の変形労働時間制と同様に、「日ごと」「週ごと」「設定期間全体(1年)」の3つの基準に沿って計算します。
「日ごと」
(1)所定労働時間が8時間を超えている日
所定労働時間を超えて働いた時間全てが法定外残業時間になります。
(2)所定労働時間が8時間以内の日
所定労働時間から8時間までが法定内残業、8時間を超えて働いた時間が法定外残業時 間となります。
「週ごと」
(1)所定労働時間が40時間(44時間)を超えている週
所定労働時間を超えて働いた時間が法定外残業時間になります。
(2)所定労働時間が40時間以内の週
40時間を超えて働いた時間のみが法定外残業時間になります。ただし「日ごと」の基準で残業となった時間は、「週ごと」の基準では除外されます。
「設定期間全体(1年)」
期間全体の法定労働時間を超えて働いた時間が法定外残業となります。
「365日」では2085.7時間、「366日(うるう年)」は2091.4時間を超えて働いた時間が 残業時間となります。ただし「日ごと」「週ごと」の基準で残業となった時間は、期間全体の基準では計算から除外されます。
この場合では、「日ごと」「週ごと」の基準に分けて計算します。この2つの基準に基づいて算定した時間を合計した時間が、残業時間となります。
①「日ごと」
(1)1日、8時間を超える所定労働時間が通知された日の場合
その通知された時間(それが10時間を超える場合は10時間)を超える労働時間に
ついては、時間外労働となります。
(2)1日について、8時間以下の所定労働時間が通知された日の場合
8時間を超える労働時間については時間外労働となります。なお1日の所定労働時
間を超えたが、8時間以下の労働時間については通常の賃金となります。
そのため、所定労働時間が7時間で、実際に7時間30分労働した場合には該当し
ません。
②「設定期間全体(1週間)」で考える場合
法定労働時間の40時間を超えて働いた時間が法定外残業となります。
ただし、「日ごと」の基準で残業となった時間は、期間全体の基準では計算から除
外されます。
こちらの例に当てはめてみると、、
A 1日について所定労働時間(5時間)を超えるものの法定労働時間(8時間)以内である
ので時間外労働とはならない
B 1日について所定労働時間(9時間>法定労働時間の8時間)を超えているため、時間外労働となる
C 1日について所定労働時間(5時間)以内であるが、1週間をトータルでみた場合、
週の法定労働時間(40時間)を超えているので時間外労働となる。ただし、Bですでに
算出した1時間を差し引いて計算する。
計算例:日6+月6+水7+木9(10-1)+金9+土5=42
参考:WEB労政時報「労働基準法の基礎知識‐1週間単位の非定型的変形労働時間制」
まず労働者の勤務実績を調べ、現状を把握する必要があります。そうすることにより、繁忙期・閑散期の時期を見極め対象期間や、所定労働時間の割り当てを適切に行うことができます。
変形労働時間制を導入する際には、就業規則の整備や労使協定の締結が必要となります。そのため、それらに定める内容を勤務実績をもとに決めておかなければなりません。
労働者の働き方がこれまでとは変わるため、就業規則の整備が必要となります。
労使協定の締結は基本的に必要であると、労働基準法に記載されています。労使協定とは使用者と労働者の間で締結する協定のことです。
1ヶ月単位の変形労働時間制の場合には、労使協定ではなく就業規則等に記載することも可能です。②で決めた内容について、労働者と合意した上で締結しましょう。
変更した就業規則や、労使協定は所轄の労働基準監督署へ提出しなければなりません。
しかし労使協定には有効期間があるため、制度の運用を継続するには期間内に再提出する必要があります。また、残業や休日出勤が発生する可能性があれば、併せて36協定を提出しましょう。
36協定とは、時間外労働・休日労働に関する協定です。
労働基準法では、1日及び1週間の労働時間並びに休日日数を定めていますが、これを超えて時間外労働または休日労働させる場合には、あらかじめ「36協定」を締結し、労働基準監督所に届け出なければなりません。
制度について理解し、納得して働いてもらえるようにも、労働時間や賃金について十分な説明をしましょう。
今回は、変形労働時間制についてご紹介しました。
変形労働制を導入することで、残業時間・残業代の削減につながり、企業、労働者ともにプラスの効果が期待されます。
しかし一方で、「残業代が今までのように支払われない」などといった不満の声も出てくるかもしれません。制度を有効に活用し、また気持ちよく働いてもらえるようにも、まずは使用者が制度について十分に理解することが大切です。
そして、導入目的や残業代の計算方法などきちんと説明できるようにしましょう。