年金制度について

1) 公的年金とは

公的年金とは、国が運営する年金制度です。


公的年金制度は、日本国民が安心して生涯暮らせるように、社会全体であらかじめ備えておくためにつくられました。加齢や、病気、怪我など様々な要因によって自立した生活を営むことができなくなるリスクがありますが、個人であらかじめ貯蓄しておくには限界があります。そこで、あらかじめ保険料を納めておき、必要なタイミングで「年金」という形で受給できるようにしたのが、公的年金制度です。


公的年金には、「国民年金」と「厚生年金」の2種類があります。


日本の公的年金制度は、2階建ての構造になっており、1階部分は基礎年金と呼ばれる国民年金であり、上乗せの2階部分が厚生年金です。


会社員や公務員は、国民年金に上乗せする形で厚生年金に加入することになります。

2)加入者の分類

その人の職業等によって、公的年金制度の加入者(=被保険者)が分類されます。

分類によって、加入する保険制度や保険料の納付の有無、方法が異なってきます。

3)国民年金と厚生年金の違い

国民年金は、日本国内に居住する20歳以上60歳未満の全ての人が加入するものです。

そのため、外国人であっても日本に住所を有し、在留カードを持っている場合には必ず加入しなければなりません。


一方で、厚生年金は、会社員や公務員などの事業所に雇用される人が、国民年金に上乗せして加入するものです。厚生年金に加入する場合には、自動的に国民年金にも加入することになります。


そして、支給開始年齢に達すると、国民年金の被保険者は、国民年金から支給される「老齢基礎年金」を受け取り、厚生年金に加入したことがある人は、「老齢基礎年金」に加えて厚生年金から支給される「老齢厚生年金」を受け取れます。


以下では、国民年金と厚生年金の主な違いについてまとめています。

※1 出典:国民年金機構「国民年金保険料」

https://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/hokenryo/20150313-02.html

※2 出典:国民年金機構「老齢年金ガイド」

https://www.nenkin.go.jp/service/pamphlet/kyufu.files/LK03.pdf

4) 公的年金の種類

老齢年金


老齢年金は65歳以上の被保険者に支給される年金のことです。

老齢年金には「老齢基礎年金」と「老齢厚生年金」の2種類があります。


老齢基礎年金:国民年金に10年以上加入した被保険者が受け取れる年金


老齢厚生年金:老齢基礎年金の受給資格を満たした被保険者に、厚生年金の加入期間がある場合に、老齢基礎年金に上乗せして受け取れる年金


遺族年金


遺族年金は、被保険者が亡くなった場合に、遺族の生活資金を填補するための年金です。

遺族年金には、「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の2種類があります。


遺族基礎年金:国民年金の受給要件を満たしている被保険者が亡くなった場合に、被保険者によって生計を維持していた子供(18歳未満)のいる配偶者または子供が受給できる年金


遺族厚生年金:厚生年金の受給要件を満たしている被保険者が亡くなった場合に、被保険者によって生計を維持されていた遺族が受給できる年金


障害年金


障害年金は、病気やけがなどで生活に支障が出たり、仕事ができなくなった場合に支給される年金です。

障害年金には、「障害基礎年金」と「障害厚生年金」の2種類があります。


障害基礎年金:国民年金に加入している間に初診日のある病気やケガで、法令により定められた障害等級表(1級・2級)による障害の状態にある場合に支給される年金です。国民年金の対象とならない20歳未満で障害を負った人も含まれます。


障害厚生年金:厚生年金に加入している間に初診日のある病気やケガで、障害等級表(1級・2級・3級)による障害の状態になった場合に、障害基礎年金に上乗せして支給される年金です。

5) 国民年金と厚生年金の切り替え

①切り替えのタイミング


結婚や就職、転職のタイミングで、国民年金・厚生年金を切り替える必要が出てきます。


そこで、以下では、切り替えが必要となる代表的なタイミングをご紹介します。


〇会社金や公務員になったとき


第1号・3号被保険者→第2号被保険者



〇会社を退職する場合


第2号被保険者→第1号被保険者



〇結婚を機に、配偶者の年間収入が130万円未満となる場合


第1号・2号被保険者→第3号被保険者


②途中で切り替えた場合


では、月の途中で切り替えた場合に、年金保険料はどのようになるのでしょうか。入社日または退職日の日にちによって、保険料に差異はあるのでしょうか。


厚生年金の保険料は月単位で計算します。

そのため、入社については、何日に入社しても入社月1ヵ月分保険料を支払う必要があります。

退職については、月末日に退職した場合は退職月1ヵ月分の保険料を支払いますが、それ以外はいつ退職しても支払う必要はありません。ただし、退職月の国民年金保険料、または転職先の厚生年金保険料を支払う必要があります。


例えば、国民年金に加入していた人が、10日に就職して、厚生年金に加入した場合は、前月までは国民年金保険料を納め、入社月からは厚生年金保険料を納めることになります。


20日に会社を辞めて、同月21日に国民年金に加入した場合、前月までは厚生年金、退社月からは国民年金の保険料を納めることになります。


31日に会社を辞め、翌月1日に再就職した場合は、退職月までは退職した会社の厚生年金を納め、翌月から再就職先の厚生年金を納めることになります。


このように、保険料を両方支払う必要はなく、どちらか一方だけ支払えば足ります。

6) 外国人就労者と公的年金について

国民年金は、上述したように日本に在住する全ての人が加入する義務があります。

そのため、外国人であっても必ず加入しなければなりません。


もっとも、受給資格が得られる年齢まで日本に滞在する意思がなく、一定期間のみ日本に滞在する外国人の中には保険料の支払いを拒む場合もあります。


そこで、保険料の支払いに後ろ向きな人に対する対処法を以下でご紹介します。

①社会保障協定


世界各国それぞれに日本の国民年金のような保険制度があるため、海外に居住する人は国籍を有する国と居住する国それぞれに対し保険料を支払う必要が出てきます。


しかし、そのような二重払いによって納めた保険料が無駄になる可能性もあります。


そこで、年金の二重加入の問題に対処するために、年金加入期間を通算できるよう2国間で結ばれたものが社会保障協定です。


日本と外国人就労者の出身国が社会保障協定を結んでいれば、母国に帰国しても、自国の年金保険料を支払い済みと扱われるので、保険料の二重払いを心配する必要はありません。



協定が発効済みの国

ドイツ、イギリス、韓国、アメリカ、ベルギー、フランス、カナダ、オーストラリア、オランダ、チェコ、スペイン、アイルランド、ブラジル、スイス、ハンガリー、インド、ルクセンブルク、フィリピン、スロバキア、中国、フィンランド、スウェーデン


署名済み未発効の国

イタリア



そのため、外国人就労者が年金保険料の支払いを拒む場合には、出身国が社会保障協定を結んでいるかを確認し、制度についてきちんと説明をして、理解を求める必要があります。


上記の社会保障協定を結んでいる国によっては、協定内容が異なります。

「国民年金と厚生年金どちらも社会保障協定を結んでいるのか」「期間は通算されるのか」などをよく確認する必要があります。

②脱退一時金制度


協定が未発行の国出身の場合は、脱退一時金制度を活用することができます。


脱退一時金制度とは、日本で国民年金または厚生年金に加入していた外国人が、母国に帰った場合に、納付した保険料の一部を日本年金機構に請求できる制度です。


脱退一時金制度の利用対象は以下の通りです。


①日本国籍を有していない

②国民年金または厚生年金の被保険者ではない

③保険料納付済み期間等の月数の合計が6か月以上ある

④老齢年金等の受給資格を有していない

⑤日本国内に住所を有していない

⑥最後に被保険者資格を喪失した日から2年以上経過していない


脱退一時金制度によって、返金される金額は保険料の納付済期間や被保険者であった期間の平均報酬等によって異なります。

詳細は日本年金機構のホームページをご確認ください。


脱退一時金制度を利用した場合、日本で保険料を納めていなかったとみなされます。

社会保障協定締結国の出身であれば、日本で保険料を納めていた期間も母国の年金支払い期間に合算されますが、脱退一時金制度を利用した場合には、一切合算されないので注意が必要です。


また、日本で再び生活する場合には、一から年金の支払いを積み立てていかなければなりません。

脱退一時金制度を利用する人は慎重に検討しましょう。

7)まとめ


今回は年金制度についてご紹介しました。


外国人材の中には、保険料の支払いを拒絶する人もいますが、二重払いの不都合を解消できる制度も整っていますので、制度の利用も含めてきちんと説明しましょう。