労働保険とは
労災保険・雇用保険との違いって?
ー給付条件や雇用者の加入、退職時の手続きについてご紹介ー
1) 労災保険
①労災保険とは
労働保険には、労災保険と雇用保険の2種類があります。
労災保険とは、業務中や通勤中の事由による労働者の負傷、疾病及び死亡に対して労働者またはその遺族に対して必要な保険給付を行う制度です。
正式名称は、「労働者災害補償保険」です。
労働者が通勤時や就労中に怪我をしたり、仕事が原因で病気になった場合に、労災と認定されると国から給付金が支払われる仕組みとなっています。
労災保険は、労働者が加入するのではなく、事業主が加入する点に特徴があります。
②労災保険の適用要件
一人でも労働者を雇用する事業主は、事業の規模に関わらず、従業員を労災保険に加入させなければなりません。
国籍及びパートやアルバイトなどの雇用形態は関係ありません。
そのため、外国人労働者も日本人と同様に労災保険が適用されます。これは不法就労者であっても同様です。
③保険料率について
労災保険の保険料は、事業主が全額負担します。
事業主は年度初めに、労災保険の保険料の概算額を算出して納付し、年度末に精算することになります。
すなわち、毎年4月1日から3月31日までの期間中に見込まれる賃金の総額に労災保険料率を掛け合わせて算出します。
賃金総額には、基本賃金・賞与(ボーナス)・通勤手当・深夜手当・住宅手当などが含まれます。
労災保険料率は事業の種類ごとに細かく定められています。
例えば、建築業なら9.5/1000、食料品製造業なら6/1000、卸売業や宿泊業なら3/1000となっています。
(出典:厚生労働省「労災保険料率(平成30年度~)」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudouhokenpoint/dl/rousaihokenritu_h30.pdf
労災保険料=労災保険対象労働者の賃金総額×労災保険料率
④労災保険給付の種類
⑤加入・退職時の手続き
事業主は労働者を1人でも雇った場合、初めて雇った日から10日以内に「保険関係成立届」と「履歴事項全部証明書」を所轄の労働基準監督署に提出する必要があります。
加えて、50日以内に「労働保険概算保険料申告書」を労働基準監督署に提出しなければなりません。
これらの書類を一度提出すれば、新入社員が入社するたびに個別に加入手続きをする必要はありません。
労災保険については、労働者が退職しても、特に手続きは必要ありません。
2) 雇用保険
①雇用保険とは
雇用保険とは、労働者が失業したり、会社の都合で雇用の継続ができなくなったりしたときなどに、労働者の生活の安定を図り、再就職を促進することを目的とした制度です。
このように労災保険と雇用保険は労働者保護を目的としていることは同じですが、上述のとおり適用される場面が異なります。
雇用保険の主な給付内容は失業手当や再就職手当、育児休業手当などがあります。
②雇用保険の適用条件
労働者を一人でも雇った場合、適用除外(個人経営で従業員が5人以下の農林水産業を営む会社)に該当しない限り、雇用保険の適用事業所となります。
そのため、雇用形態や加入希望の有無にかかわらず、要件に該当すれば加入が必要となります。
外国人労働者や技能実習生についても同様です。
下記の要件を全て満たす場合には、被保険者となります。
① 会社が雇用保険の適用事業所であること
② 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
③ 31日以上の雇用見込みのある労働者であること
下記の要件を満たす場合には、適用されないことがあります。
1⃣ 1週間の所定労働時間が20時間未満になる場合
2⃣ 同一の事業主の適用事業所において継続して31日以上雇用される見込みがない場合
3⃣ 65歳の誕生日の前日以降に雇用された場合
4⃣ 昼間に学校に通っている場合
5⃣ 在日外国人で、ワーキングホリデー制度による入国者及び留学生の場合
6⃣ 国外にて、現地採用された外国人材の場合
7⃣ 2以上の適用事業主に雇用されている場合
③保険料について
雇用保険の保険料は、労災保険の場合とは異なり、労働者も負担し、労働者負担分は毎月の賃金から控除されます。
雇用保険料=雇用保険対象労働者の賃金総額×雇用保険料率
雇用保険料率は業種によって異なります。
天候や景気に左右されて雇用が不安定になりやすい職種は、失業給付や休業補償の利用頻度が大きく異なるからです。
<令和4年4月1日~同年9月30日>
<令和4年10月1日~令和5年3月31日>
(出典:厚生労働省「令和4年度雇用保険率のご案内」)
https://www.mhlw.go.jp/content/000921550.pdf
④雇用保険の給付の種類
⑤加入の手続き・退職時の手続き
~加入手続き~
雇用保険の適用対象となる者を初めて雇う場合には、事業所を管轄するハローワークに「事業所設置届」、「雇用保険被保険者資格取得届」を提出する必要があります。
その後、新たに雇い入れるごとにその都度、ハローワークに「雇用保険被保険者資格取得届」を提出しなければなりません。そして、事業主は、この届出の提出によりハローワークから交付された「雇用保険被保険証」を本人に渡します。
取得届の提出期限は取得月の翌月10日までです。
外国人従業員の加入手続きの際は、「雇用保険被保険者資格取得届」に下記の事項を記載します。
①氏名 ②在留資格 ③在留期間 ④生年月日 ⑤性別 ⑥国籍・地域
⑦資格外活動許可の有無 ⑧在留カード番号 ⑨雇入れに係る事業所の名称及び所在地など
「雇用保険被保険者資格取得届」の「17」~「23」欄に上記事項を記入してハロー ワークに提出することによって、外国人雇用状況の雇入れの届出を行ったことになります。
外国人を雇用する事業主は、雇入れおよび退職に際して、ハローワークへ「外国人雇用状況の届出」を提出することが義務付けられています。
雇用保険に加入する場合には、「雇用保険被保険者資格取得届」や「雇用保険被保険者資格喪失届」の提出が「外国人雇用状況の届出」の代わりになりますが、雇用保険に加入しない場合には、「外国人雇用状況の届出」を作成し、必ずハローワークに提出しましょう。
なお、2020年3月から、「在留カード番号の届出」が必要になりました。雇用保険被保険者資取得届とは別に、在留カード番号記載様式が用意されています。
記載事項は以下のとおりです。
①事業所番号、②事業所名、③在留カード番号
雇用保険被保険者以外であれば、外国人雇用状況届出書に在留カード番号を記載してください。
~退職時の手続き~
雇用保険被保険者が離職する場合には、「雇用保険被保険者資格喪失届」と「雇用保険被保険者離職証明書」をハローワークに提出する必要があります。これらを提出すると、「離職票」が発行されます。
喪失届の提出期限は離職日から10日以内です。
外国人従業員の離職手続きには、「雇用保険被保険者資格喪失届」に下記の事項を記載します。
①氏名 ②在留資格 ③在留期間 ④生年月日 ⑤性別 ⑥国籍・地域
⑦在留カード番号⑧離職に係る事業所の名称及び所在地など
表面の「住所(被保険者の住所又は居所)」欄や裏面の「14」~ 「19」欄に上記事項を記入してハローワークに 提出することで、外国人雇用状況の離職の届出を行ったことになります。
2020年3月から、「在留カード番号の届出」が必要になりました。雇用保険被保険者資格喪失届とは別に、在留カード番号記載様式が用意されています。
記載事項は以下のとおりです。
①事業所番号、②事業所名、③在留カード番号
雇用保険被保険者以外であれば、外国人雇用状況届出書に在留カード番号を記載してください。
また、外国人従業員が退職する際には、「退職証明書」も発行しましょう。
労働基準法第22条に従って交付するものであり、離職証明書や離職票のように公的文書ではありませんが、外国人従業員が転職した後も就労ビザを引き続き有効にするために、入国管理局で必要になることがあります。
あくまでも、その会社が独自に発行する文書であり、退職者が交付を請求する場合にのみ交付義務が発生します。
記載事項は下記の通りです。
①試用期間、②業務の種類、③当該事業における地位、④賃金、⑤退職理由
3)まとめ
今回は労働保険についてご紹介しました。
外国人を受け入れる又は外国人が離職する場合には特別に必要となる手続きがありますので、きちんと確認するようにしましょう。