酒類の販売業をしようとする場合には、酒税法の規定に基づき「酒類販売業免許」を受ける必要があります。「酒類販売免許」はその販売形態によって必要な免許が異なりますが、今回は、自社で酒類を輸出して海外の業者に卸売することができる「輸出酒類卸売業免許」についてご紹介します。
酒類の販売業をしようとする場合には、酒税法の規定に基づき「酒類販売業免許」を受ける必要があります。販売場ごとに、その販売場の所在地の所轄税務署長から酒類販売業免許を受ける必要があります。そのため、本店で販売業免許を受けている場合であっても、支店で酒類の販売業を行おうとする場合には、支店の所在地の所轄税務署長から新たに販売業免許を受ける必要があります。
そして、「酒類販売業免許」はその販売形態に応じて「酒類小売業免許」と「酒類卸売業免許」に区分されます。
「輸出酒類卸売業免許」とは、自社で酒類を輸出して海外の業者に卸売することができる免許です。
しかし、「輸出酒類卸売業免許」がなければ酒類の輸出が一切できないわけではありません。「酒類の小売業免許」を取得していれば、海外の一般消費者および飲食店に対して酒類を輸出販売することができます。したがって、海外の酒類小売業者や卸売業者に対して酒類を輸出販売する場合に「輸出酒類卸売業免許」が必要になるということです。ただし、酒造メーカーなど酒類製造者が自社で製造したお酒を輸出する場合には「輸出酒類卸売業免許」は必要ありません。
なお、上記の取り扱いは全ての税務署に共通するものではなく、「酒類の小売業免許」があればあらゆる販売先に対して輸出できるという見解の税務署もあるようです。お酒を輸出する場合には、どの免許が必要かを管轄の税務署に確認しましょう。
手引きには「輸出入酒類卸売業免許」と表記されていますが、実際には「輸出」と「輸入」別の免許になりますので、「輸出酒類卸売業免許」を取得しても、酒類を輸入することはできません。
◎「日本酒」の輸出拡大に向けた取り組みを後押しする観点から「輸出用清酒製造免許制度」が新設されました。この制度は、輸出用に限って清酒の最低製造数量基準60klを適用しないことにより、高付加価値の清酒を少量から製造できるなど、「日本酒」ブランド価値の確保・向上を図るものです。日本酒を輸出したい方はこちらの免許の取得を検討してみてはいかがでしょうか。
「輸出用清酒製造免許」の詳細はこちらからご確認いただけます。
➡税務署「輸出用清酒製造免許の申請等の手引」
「輸出酒類卸売業免許」の要件は「酒類卸売業免許」全般の要件として規定されています。
(ⅰ)人的要件
①酒類等の製造免許もしくは販売業免許、または、アルコール事業法の許可の取り消し処分を受けた者の場合、取り消し処分を受けた日から3年を経過していること
②酒類等の製造免許もしくは販売業免許、または、アルコール事業法の許可の取り消し処分を受けたことがある法人の、その取消原因があった日以前1年内にその法人の業務を執行する役員であった者の場合には、取り消し処分を受けた日tから3年を経過していること
③申請者が申請前2年内において国税又は地方税の滞納処分を受けていないこと
④申請者が国税又は地方税に関する法令により罰金刑や通告処分を受けた場合には、その通告処分を受けてから3年を経過していること
⑤申請者が未成年飲酒禁止法や風俗営業等適正化法、刑法等により、罰金刑に処せられた場合、その執行を終えた日から3年を経過していること
⑥申請者が禁錮以上の刑に処せられた場合、その執行を終えた日から3年を刑かしていること
(ⅱ)場所的要因
①お酒の販売場が、製造場や他の販売場、料理店等と同一の場所でないこと
②販売場の区画や販売従事者、レジなどが他の営業と明確に区分されていること
※例えば狭い店舗内の一部を借り、陳列棚を販売場とする場合には、明確に区分されていると認められません。
(ⅲ)経営基礎的要件
①免許の申請者が破産者で復権を得ていない場合に該当しない
②経営の基礎が薄弱でないと認められること
具体的には次の(A)~(I)で判断します。
(A)国税又は地方税を滞納していない
(B)申請前1年以内に銀行取消停止処分を受けていない
(C)最終事業年度における確定した決算に基づく賃貸対照表の繰越損失が資本等の額を上回っていない
※資本等の額=(資本金+資本剰余金+利益剰余金)-繰越利益剰余金で計算されます。
(D)最終事業年度以前3事業年度において、資本等の額の20%を超える額の欠損を生じていない
(E)酒税に関係のある法令の違反による通告処分等を受けていない
(F)販売場の申請場所への設置が、建築基準法や都市計画法等違反による店舗の除却を命じられていない
(G)経験その他から判断し、適正に酒類の卸売業を経営するに十分な知識及び能力を有する
と認められること ※ただし、酒類販売の経験は不問
(H)資金や施設及び設備を有している、又は必要な資金を有し免許の付与までに施設及び設備を有するこ
とが確実と認められること
(I)申請等販売場における年平均販売見込数量(卸売基準数量)が、全酒類卸売業免許に係る申請等につい ては 100kl 以上、ビール卸売業免許に係る申請等については 50kl 以上であること
(注)全種類卸売業免許及びビール卸売業免許以外の免許については、年平均販売見込み数量に関する基準はありません
(ⅳ)需給調整要件 ※全酒類卸売業免許及びビール卸売業免許のみ
全酒類卸売業免許及びビール卸売業免許については、それぞれの免許に係る販売数と消費数量のそれぞれの地域的需給調整を行うために、卸売販売地域を設けています。卸売販売地域は都道府県を1単位としています。
各卸売販売地域(都道府県)における免許可能件数は、毎年9月1日に各税務署の掲示板や国税庁ホームページにて掲載されます。
酒販店など、既に「酒類小売業免許」を保有している事業者が、酒類の輸出を始める際には「輸出酒類卸売業免許」を新規に取得するのではなく、条件緩和の手続きを行います。
【要件】
①酒類販売業免許の取得要件に該当していないこと
②年平均販売見込数量(卸売基準数量)が、全酒類卸売業免許に係る申出について
は100kl 以上、ビール卸売業免許に係る申出については50kl以上であること
③需給調整要件を満たしていることなど
酒類卸類業免許の申請書類は次のとおりです。
①酒類販売業免許申請書
②酒類販売業免許の免許要件誓約書
③申請者の履歴書 ※申請者が法人の場合には、監査役を含めた役員全員の職歴を記載
④定款の写し ※申請者が法人の場合のみ提出
⑤地方税の納税証明書 ※申請者が個人の場合には、証明事項に「特別法人事業税」を含める
⑥契約書等の写し
⑦最終事業年度以前3事業年度の財務諸表 ※申請者が個人の場合には収支計算書等を添付
⑧土地及び建物の登記事項証明書 ※全部事項証明書に限る
⑨免許申請書チェック表
※③及び④の添付書類については、申請販売場の所在地を管轄する税務署管内に既に免許を受けた酒類販売場を有している場合には、添付を省略できます。
記載例につきましては、こちらのファイルの28頁をご覧ください。
【提出先】
〇販売場の所在地を所轄する税務署
➡国税庁のHPで、税務署の所在地をご確認いただけます。
〇e-Taxソフトを利用した電子データ型式
➡e-Taxソフトのマニュアルはこちら
①申請書等の提出
「酒類免許申請書」及び必要な添付書類を作成し、
販売場の所在地の所轄税務署又はインターネット上で提出します。
⇓
②審査
税務署において審査が行われます。
申請書類の審査には、相当の期間(標準2ヶ月)がかかります。
また、必要に応じて、来署を求める場合や、現地確認を行う場合があります。
⇓
③免許付与等の通知
酒類卸売業免許が付与される場合、登録免許税を納付する必要があります。
税務署から「酒類販売業免許に伴う登録免許税の納付通知書」の通知が届いたら、
税務署又は金融機関等で登録免許税を納付してください。
登録免許税の額は、免許1件につき9万円、
酒類小売業免許を条件緩和(解除)する場合は6万円です。
なお、登録免許税の納付に係る領収証書の提出が義務付けられています。
「登録免許税の領収証書提出書」に貼付して、指定された期日までに
税務署に提出してください。
⇓
④酒類の販売開始
日本から多くの酒類が輸出されている韓国、中国、台湾、香港、アメリカ、カナダへの輸出注意点を紹介していきます。
・韓国
酒類本品に、製品名・製造年月日・アルコール度数・原産国・原材料名などが記載されているラベルを貼り付ける必要があります。また、韓国では日本でいう「賞味期限」という概念がないため、「流通期限」または「品質保持期限」として記載する必要があります。
税金面では、関税・酒税以外に、酒税額の10%である教育税、その他付加価値税という税金がかかります。
・中国
中国では酒類の輸入を、食品安全法・中華人民共和国貨物輸出入管理条例・輸入酒類国内市場管理弁法・輸出入食品安全管理弁法など様々な法律で規制しています。例を挙げれば、添加物は化学名まで詳しく記載するなどです。中国側が定める品質基準に合致しないと輸入できないか、あるいは検査を受ける必要があるので、あらかじめ詳細を確認しておきましょう。
・台湾
台湾向けの酒類は、ラベルに商品名やアルコール度数、製造業者名、製造年月日、賞味期限などを中国語で記載する必要があります。また、台湾政府の財政部に輸入許可を申請して取得しておきます。二酸化硫黄、鉛、メタノールなどの最大許容量が定められるなど衛生基準が設けられています。
・香港
香港向けの酒類は、ラベルに製品名やアルコール度数、製造者名あるいは包装業者名と住所、賞味期限を記載する必要があります。また、アルコール度数30%を超える酒類の輸出は、あらかじめ香港税関に輸入ライセンスの申請をして取得しておきましょう。関税は掛かりませんが、物品税の対象になるケースがあります。アルコール度数30%以下の場合は免税になりますが、30%以上の場合は100%と極端な差がありますので注意が必要です。
・アメリカ
ラベルに商品名や度数、内容量のほかにも、着色料名や原産国名、輸入者名と住所などを記載する必要があります。また、連邦酒税以外に州酒税など輸入するエリア独自の徴収もあります。
・カナダ
カナダでは、州および準州政府に管理権限が与えられており、輸入地によって規制内容や税額が変わってきます。
参考:セイノーロジックス株式会社「【徹底解説】海外で人気沸騰!日本酒の輸出手続きと相手国別の注意点」
今回はお酒の輸出に欠かせない手続きや流れ、輸出先国ごとに気を付けるべきポイントをご紹介しました。自身が取り扱う酒類を海外に輸出することで、新たな販路開拓や売上アップが期待されますが、書類等の作成や煩雑な手続きがありますので、今回紹介したポイントを押さえておきましょう。スムーズに申請を行うためにも、迷われた際には当法人にお気軽にお問い合わせください。
【問い合わせリンク】
info@visaoffice.jp
参考:税務署「酒類卸売業免許申請の手引」