外国人就労者の雇用にあたって適用される法律
ー外国人を雇用する際に注意すべき点とはー
ー外国人を雇用する際に注意すべき点とはー
外国人を雇用する場合に、事業主が講ずべき必要な処置について定めているのが、厚生労働省による「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」(以下、本指針とします)です。
本指針によると、労働関係法令及び社会保険関係法令は国籍にかかわらず適用されるため、事業主は、外国人労働者についても各関係法令に従った処遇や手続きを履行しなければなりません。
労働関係法令及び社会保険関係法令には、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」「職業安定法」「労働者派遣法」「雇用保険法」「労働基準法」「最低賃金法」「労働安全衛生法」「労働者災害補償保険法」「労働契約法」「労働組合法」「男女雇用機会均等法」「健康保険法」「厚生年金保険法」などが挙げられます。
この記事では、特に重要な「労働基準法」「雇用対策法」「最低賃金法」「出入国管理及び難民認定法」に焦点をあてて、解説していきます。
労働基準法とは、労働条件の最低基準を定める法律です。
正社員・契約社員・パートアルバイトなど雇用形態にかかわらず全ての労働者に適用されます。
また、「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない」(労働基準法(以下法名略)第3条)と定められており、国籍問わず適用されます。
◆労働時間の上限は原則1日8時間、1週間40時間です(32条1項、2項)。
休日は、少なくとも週に1日取る必要があります(35条1項)。
◆休憩時間は、勤務時間が6時間を超える場合には最低45分、8時間を超える場合には最低1時間の休憩時間が必要です(34条1項)。
◆時間外労働や休日労働を行う場合は、『36協定』を締結して労働基準監督署への届出が必要になります(36条1項)。
36協定を締結することにより、時間外労働時間等の上限時間は1ヶ月45時間、1年360時間となります(36条4項)。
もっとも、繁忙期などで臨時的に上限時間を超える勤務が必要となる場合には、特別に1ヶ月100時間、1年720時間を超えない範囲で延長することができます(36条5項)。この場合、労働時間を延長して労働する時間が1ヶ月につき45時間を超えることができる月数を定めなければなりません(1年につき6ヶ月以内に限る)。
1ヵ月の時間外労働の合計が60時間までの場合、通常賃金の25%以上、1ヶ月の時間外労働の合計が60時間を超えた場合、通常賃金の50%以上の割増賃金が必要となります(37条1項、2項)。
休日労働に対しては、通常賃金の35%以上の割増賃金が必要となります。
◆雇入れ日から6か月間継続して勤務し、全労働日の8割以上を出勤した労働者に対しては、10日以上の有給休暇を与えなければなりません(39条)。
有給休暇の日数は、6か月経過日から起算した継続勤務年数1年ごとに、下記の区分に応じて、10日に加算していくことになります。
◆賃金は、毎月1回以上、一定の期日に、通貨で、直接労働者に全額を支払わなければなりません(24条1項、2項)。
◆最低賃金とは、労働者に対して賃金の最低額を保障するものです。外国人社員に対しても日本人社員と同様に最低賃金に基づいた報酬を支払う必要があります。
最低賃金については、「最低賃金法」で詳しく定められています(28条)。
雇用側と外国人社員が最低賃金以下で契約を締結した場合には、この契約は無効となり、改めて最低賃金に基づいた雇用契約を締結することになります。
最低賃金には都道府県別に定められた金額と特定・産業別に定められた金額の2種類があります。この2種類の金額を照らして高額の方に合わせ、最低賃金を設定します。
都道府県別の最低賃金は、毎年10月1日に改正されますので確認しましょう。
最低賃金法については、4)最低賃金法 で詳しく説明しています。
社員が常時10名以上の会社の場合、下記に関する事項について、会社のルールとして就業規則を作成し、行政官庁に届ける必要があります(96条)。
①始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇
②賃金の決定、支払方法、支払いの時期
③退職に関する事項
④労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合、これに関する事項
⑤安全・衛生に関する事項
⑥職業訓練に関する事項
⑦災害補償及び業務外の傷病扶助に関する
⑧表彰及び制裁に関する事項
労働契約と就業規則の関係
労働契約とは、労働者と会社が個別に結んだルールです。
一方で、就業規則とは、職場内で守られるべき規律や共通の労働条件など職場での統一的なルールを定めたものです。
労働契約において、労働条件を詳細に定めていない場合や就業規則を下回る労働条件を提示された場合において、会社が合理的な労働条件を定めた就業規則を従業員へ周知していれば、就業規則の法的効力が生じます(労働契約法7条)
そして、労働契約書などの書面において明確に労働条件を定め、会社と従業員が合意していたとしても、就業規則よりも低い基準を定める部分は、就業規則に抵触することにより、その労働契約は無効となり、就業規則が適用されます(労働契約法12条)。
雇用対策法(以下法名略)は、正式名称を「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」といいます。
同法の目的は下記のとおりであり、同法1条に定められています。
・労働者の職業の安定
・経済的社会的地位の向上
・経済及び社会の発展
・完全雇用の達成
新たに外国人労働者を雇入れまたはその外国人が離職する場合には、「外国人雇用状況の届出」を提出する必要があります(28条1項)。
雇用保険に加入する場合には、「雇用保険被保険者資格取得届」や「雇用保険被保険者資格喪失届」の提出が「外国人雇用状況の届出」の代わりになりますが、雇用保険に加入しない場合には、「外国人雇用状況の届出」を作成し、必ずハローワークに提出しましょう。
〈届出事項〉
・雇用保険に加入する場合
名前、在留資格、在留期間、生年月日、性別、国籍・地域、
雇用保険被保険者資格取得届又は雇用保険被保険者資格喪失届に記載すべき当該外国人の雇用状況等に関する事項(職種、賃金、住所等)
・雇用保険に加入しない場合
氏名、在留資格、在留期間、生年月日、性別及び国籍・地域、在留カードの番号
上記事項以外の事項は、外国人のプライバシー保護の観点から聴取するべきではありません。
なお、事業主が外国人雇用状況届の提出を怠った場合または虚偽の届出を行った場合は、30万円以下の罰金に処せられることとなります(40条1項2号)。
雇用対策法7条は、外国人がその有する能力を有効に発揮できるよう、職業に適応することを容易にするための措置の実施その他の雇用管理の改善等の努力義務を課しています。
同8条は、厚生労働大臣が、事業主が適切に対処するために必要な指針を定め、これを公表することとしており、これを受けて、「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」が公表されています。
本指針には、外国人労働者の雇用にあたって事業主が講ずべき必要な措置が定められているため、よく確認しましょう。
外国人労働者雇用管理指針については下記もご参照ください。
最低賃金法には、雇用主が労働者に対して最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない旨が定められています(同法4条1項)。
最低賃金の額は時間給として定められます(同法3条)。
最低賃金の対象になるのは、労働者に対して1か月ごとに支払われる基本給のみです。そのため、時間外手当や休日手当、通勤手当などは除外されます。
最低賃金額は近年緩やかに上昇しており、2022年の最低賃金の全国平均は961円となっています。
最低賃金の額は毎年変更されるため、必ずチェックしましょう。
労働者と使用者との間の労働契約において最低賃金額に達しない賃金を定める場合には、その部分については無効となります(同法4条2項)。この場合、無効となった部分は最低賃金額と同等の定めをしたとみなされます。
仮に雇用主が最低賃金未満の給料しか払っていなかった場合には、雇用主に差額の支払い義務が課されることになります。
地域別最低賃金以上の給与を支払わない場合には、50万円以下の罰金に処されます(同法40条)。
最低賃金には、地域別最低賃金と特定(産業別)最低賃金という2つの種類があります。
地域最低賃金とは、各都道府県において定められた最低賃金のことです。
地域別最低賃金は各都道府県につき1つの金額が定められており、産業や職種にかかわりなくそのエリアの事業所すべてに適用されます。
また、最低賃金は正社員だけでなく契約社員やパートやアルバイトなど、あらゆる雇用形態に適用されます。
国内の最低賃金を総括する中央最低賃金審議会は毎年、地方最低賃金審議会に対して最低賃金額改訂のための目安を提示しています。これを受けて、地方最低賃金審議会では地域の実情をも加味し、最低賃金の具体的な金額を決定していきます。
都道府県別の最低賃金額は毎年10月1日に改定されます。
2022年の地域別最低賃金改定の結果、全国で最も高額となるのは東京の「1,072円」、これに次いで神奈川、大坂で「1,071円」「1,023円」となります。また、最低額は「853円」で、東北、九州を中心とする10県があてはまります。詳しくはこちらからご確認ください。
特定最低賃金とは、特定の産業に対して定められた最低賃金のことです。
業種によっては、地域別最低賃金よりも高い水準の最低賃金を定める必要があります。特定の業種に従事する人が損をしないで働けるように、関係労使の申出に基づき最低賃金審議会の調査審議を経て、同審議会が地域別最低賃金よりも金額水準の高い最低賃金を定めることが必要と認めた産業について設定されています。
特定最低賃金は製造業や鉄鋼業、特定の商品を販売する小売業などの業種に対して定められます。
令和3年3月の段階では、各都道府県の労働局や全国の最低賃金審査会によって設定されている特定最低賃金の件数は227件であり、適用労働者数は292万人となっています。詳しくはこちらからご確認ください。
特定最低賃金は地域別最低賃金よりも高い水準になっていることがほとんどです。地域別最低賃金と特定最低賃金の両方が同時に適用される場合には、より高い方の最低賃金額に照らして、支払うようにしましょう。
出入国管理及び難民認定法とは(略称入管法)、日本に出入国する全ての人と日本に在留する全ての外国人の在留の公正な管理を図ることを目的とした法律です。
日本に在留して就労しようとする外国人は、この法律に基づいて一定の在留資格を得る必要があります(同法2条の2)。
在留資格には、活動内容に伴う資格(技術・人文知識・国際業務、教育、介護、技能、高度専門職、留学等)と、身分または地位に基づく資格(永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者)があります。
活動内容に伴う在留資格で在留している外国人は、その資格の範囲内での就労のみ可能となるか、または、資格によっては就労が認められていません。
一方、身分または地位に基づく資格を得て在留している外国人は、就労できる仕事に制限はありません。
在留資格については、下記もご参照ください
⇒ 在留資格について
外国人を採用する場合には、外国人が有している在留資格で就労が可能かどうかをきちんと確認するようにしましょう。
在留資格外の活動をした場合、外国人本人は不法就労とされ、1年以下の懲役または禁固や200万円以下の罰金を科されます(同法73条)。さらに雇用した事業者は不法就労助長罪に問われ、3年以下の懲役や300万円以下の罰金に科される可能性があります(同法73条の2)。
雇った外国人が不法就労であることを知らなかった場合でも、事業主側に過失が認められた場合には、不法就労助長罪が適用されます。
そのため、過失がないレベルまで確認を徹底することが大切です。ここでいう過失とは、「在留カードを確認しなかった」「疑念が生じていたが専門家に相談しなかった」など注意が不足している場合を指します。
2018年12月の入管法改正によって、新たに「特定技能」という新しい在留資格が創設されました。
特定技能とは、日本国内で人手不足が深刻とされている特定産業分野(14業種)において、即戦力となる外国人材の就労を可能にさせる在留資格です。
これまでは、外国人を採用するには、「技能実習」という日本での技能習得を目的とする制度の利用がメインでした。しかし、雇用期間が最長でも5年に限られていたため、せっかく技能を身に付けたとしても、長期的に雇用をすることはできず、人材確保につながりませんでした。
そこで、「技能実習」で技能を身に付けた外国人を引き続き雇用できるように、「特定技能」が整備されました。
特定技能には、「特定技能1号」と「特定技能2号」の2種類があります。
~特定技能1号~
介護職や宿泊業など、14の業種を対象にしたものです。在留期間の上限は「5年」となっており、別の在留資格へ変更しない限りは帰国が必要です。
①介護
②ビルクリーニング
③素形材産業
④産業機械産業
⑤電気・電子情報関連産業
⑥建設
⑦造船・舶用工業
⑧自動車整備
⑨航空
⑩宿泊
⑪農業
⑫漁業
⑬飲食料品製造業
⑭外食業
~特定技能2号~
2建設、造船・舶用工業の2業種で認められている在留資格です。いずれも1号にも該当する業種で、さらに熟練した技能を持っていることが条件です。
1号が在留期間に定めがあるのに対し、更新は必要ですが特に在留期間は定められていません。
特定技能の創設により、14種の業種について、外国人就労者のより柔軟な働き方、企業の柔軟な外国人雇用が期待できます。
特定技能については、下記もご参照ください
⇒在留資格「特定技能」とは
今回は、外国人就労者の雇用にあたって適用される法律についてご紹介しました。
今回ご紹介した法律以外にも日本人と同様に多くの法律が適用されるため、見落としのないように気を付けましょう。